Somewhere in the Arctic

北欧在住。家の窓からオーロラが見える、雪深い北極圏近辺でひっそり暮らしています

「お箸の使い方上手ですね」と褒めることが褒めているとは限らない

先日、日本にいる母と電話で話している時にこんなやり取りをしました。

 

母 「先日、買い物に行った時に生地売り場の前で外国の人が日本語のマスクの作り方を見ながら生地を探していたのよ。日本語で見て作るなんて凄いわよね。」

そこで私は「ん?」となりました。

私 「えっ、ちょっと待って。どうしてその人が話したこともないのに日本語がわからない前提で、外国人だって思うわけ?」ととっさに反応してしまいました。

母は何の悪気もなく凄いって思ったことを私に話しただけで、なんでそんなことを聞くのという感じでした。

私は続けました。
「まずその人が見た目だけでは外国から来た人かそうでないかはわからないし、もしかしたら日本で生まれて日本語しか話せないかもしれないし、外国からきて日本に住んでいる人だけど何十年も日本に住んでいて日本語に不自由なく暮らしているってパターンもあるでしょう?」

母は少し考えたあとにそっか〜と納得したようでした。

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これは日本に住んでいた時に夫が体験したことです。

私の夫は日本に住んでいる時に、何年たっても「お箸の使い方上手ですね。」と褒められることが度々ありました。たしかに本当にキレイにお箸を使っていたのでしょう。持ち方も正しいですし、上手く使えていると思います。でも、日本に来た当時はその発言に嬉しかった夫も、何年も日本にいてお箸の使い方が上手ですねと言われるとあまりいい気分ではなかったと思うようになったと言います。

言いに来てくれる相手は面識のない方が殆どで、時にはわざわざ私たちが座っているレストランのテーブル席の近くまで来て声をかけてくれる方もいました。
相手は好意で言ってくれたのかもしれないけどちょっと複雑な気分。だってもう何年も日本に住んでいるのだからお箸は使えるよって思っていたと。

私がキレイにお箸を使っていても日本でわざわざ面識のない方がテーブルにまで来て、「お箸の使い方、上手ですね」とはなかなか言いに来ないと思います。それは見た目が日本人っぽいからです。お箸の使い方が上手ですねと褒められたのは、夫の見た目が声をかけた方からすれば、外国人ぽいってことから上手に使えていると言いに来てくれたのではないかと。

 

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こう言ったことは海外に住んでいる私も同じような経験があります。

お昼ご飯を持ってきて食べていると毎回「今日は寿司か?」と聞かれたり、
(そんな日本人でも毎日寿司食べないよ)

街で酔っ払ったおじさんに「お前らコメでも食ってろー!」と大声で道端で叫ばれたり
(コメ食ってるさー!でもパンもパスタも食べるさ!)
って心の中で思ったりしていました。

こういうやり取りって私はつい笑ってしまったり、また急すぎてとっさに反応できないまま終わってしまうこと多いのですが、これは日本にいても、海外にいても身近でよく起こっていることだと思います。言葉をかけている人は良かれと思って言っていたり、何気に思ったことを口にされている方が多いと思います。

ですが、一度海外に出て住んでみると(もちろんおかれている環境にもよると思いますが)こんなやり取りに違和感や不快感を抱くようになりました。

 

そんな母とのやり取りがあった数日後にマイクロアグレッションという言葉を耳にしました。これは私が今あげた色々なやり取りに当たるピッタリな言葉でした。

 

マイクロアグレッションとは、人と関わるとき、相手を差別したり、傷つけたりする意図はないのに、相手の心にちょっとした影をおとすような言動や行動をしてしまうことだ。「微細な攻撃」とも訳されるマイクロアグレッションがなぜ相手を傷つけるかというと、その言葉や行動には人種や文化背景、性別、障害、価値観など、自分と異なる人に対する無意識の偏見や無理解、差別心が含まれているからだ。

IDEAS For Goodから抜粋させていただきました)

 

これが実は結構厄介で難しいなと思います。国や人種だけでなく、色々な場所で自分と異なる人に対して無意識に行われていることであって、でも発言している当本人は傷つける意図がないということ。でもその一方で受け止める側も悪気がないのだと思うとその場を何も言わずに済ます事も多いのではないかと思います。そして気にしすぎなのかなって心の中で思うことも。

マイクロアグレッションの言葉に関して紹介されているサイトの中では一部の例も掲載されていました。

海外であること

英語圏に長く住んでいるのに、何年経っても「英語が上手だね」と伝える

スウェーデンでも「スウェーデン語上手だね」と言われたことが何度もあると、スウェーデンで生まれ育った女性が話してくれたことを思い出しました。彼女はご両親のルーツがアフリカにあることから見た目がよくイメージされる北欧の女性のイメージではなく、よく見た目からそういった言葉をかけられたが、自分はスウェーデンで生まれ育ってスウェーデン人だと思っているのでいい気分ではないと言っていました。

私は実際に日本から移住してきて一からスウェーデン語を勉強して、習得しているので、移住して数年経った時に、上手だねと言ってくれた方がいたときは嬉しかったのですが、逆に何十年も住まれている方が「上手だね」と声をかけられると違和感を感じているかもしれません。また、スウェーデンでは見た目が私のようにアジア人っぽくても、スウェーデンで生まれ育って国籍がスウェーデン人、母国語がスウェーデン語という方もたくさんいらっしゃるので、実際に見た目だけで「どこの国から来たの?」と聞くのはタブーな質問です。

 

「アジア人だから数学が得意」「黒人はダンスが上手い」という特定の人種へのステレオタイプ的言動

さっき例にあげたお寿司ネタや、コメを食べてるネタ。また日本人はいつもカメラをぶら下げて旅行に行っているなど、言われることは多々あります。向こうは悪気はないのですが、聞き方、からかい方によるといい気持ちはしないと思う内容もあります。

 

日本であることの例として挙げられていたのが、

  • 白人系の見た目がかっこいいと、初対面で褒めたたえる
  • 日本に住んでいる外国人(に見える人)に「日本語上手ですね」「お箸使えるのすごい」等と褒める
  • 会議室に入ってきた男性スタッフと女性スタッフのうち、女性スタッフをアシスタントだと思って飲み物を注文する

さっきのお箸の件も例の一つとして出ていました。これらは、気づかずに言っている方が結構いるのではないかと思います。私も日本に住んでいた時にやってしまっていたなって思うこともありました。

スウェーデンに移住して多くの国々のバッググラウンドを持つ人々が住んでいる環境におかれて、初めて「わー、相手にすごく失礼なことを聞いてしまっていた!」と思うことが色々ありました。日本も日々変わりつつありますが、日本にいると単一民族で長年島国として育ってきたことから、気づかずに自分の中で築かれていた考えが、いざ外国に出てみると、失礼極まりないことを言っていたと思うことがあり、思い出して恥ずかしくなりました。

 

確かに「気にしすぎじゃない?」と思う人もいるかと思います。実際私も夫も上記に挙げたような経験があった時には、その場の雰囲気を壊したくないということから黙って笑って済ますことが殆どでした。

 

でも、そういった悪気のない一言が何度も何度も、多くの人から言われて、回数を重ねると、そしてそれが自分ではどうすることも出来ない容姿から判断された発言だったなら、その当事者はどう考えるでしょう。例えば長年日本に住んで、日本語も流暢に話せて、働いている外国籍の人は、何年経っても自分が馴染めていない、いつまで経っても外の人の扱いを受けていると疎外感を感じているかもしれません。日本で生まれて育って日本人だと思っているけど、見た目から判断され外国人扱いを受けることで、自分の属している場所やアイデンティティを考え、悩む人たちもいます。

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でも、これってとても難しいことだと私も思います。
どう対応していけばいいのでしょう?

私は対策として、ただ見て思ったことを口にする前に、一度振り返って、「本当にこのようなことを聞いていいのか、発言していいのか。傷つけたりすることはないだろうかと」と心の中で考えることが必要だと自分に常に言い聞かせ、思い出すようにしています。

そして会話を進める中で、相手から「私は20年前に日本に移住してきたのよ」とか、「両親は移民としてこの国にきて、私はこの地で生まれ育ったの」というような会話になっていくと、自分が最初気になっていたことや思ったことが相手から聞けるかもしれません。そこからもし、興味があって色々聞いてみたい、そして相手が嫌な気持ちにならないようなら、会話を進めていってもよいかもしれません。そういった会話をすることで広がる世界もたくさんあります。自分とは違ったバッググラウンドの方の話を聞くことや、違った体験を聞けることで自分の視界も広がるように思います。

ただぱっと目にした人の見た目などに対して、思ったことを発することで、相手を傷つけてしまっていることはたくさんあるように思います。それは人種だけでなく、体格や、ファッションなど色々なことに言えることだと思います。そういったことはなるべく思ったことをただ発するのではなく、一度言葉にする前に考えて、コミュニケーションする相手を尊重することでお互いが気持ちよく会話が進められるのではないかなと思っています。

私は今の職場でお客さんから「どこの国から来たの?」と聞かれたことがありません。明らかに話し方、イントネーション、文章からしても外国籍ということはわかるとは思いますが、それを聞く人は今までいませんでした。そういった「あえて言わない、聞かない」配慮は私は嬉しいと思いましたし、必要だなと思いました。

 

4月から新生活が始まり、新しい出会いが沢山ある方も多いかと思います。
言葉を発する前にちょっと考えるという、ちょっとした心がけでマイクロアグレッションが社会から少しでも減っていき、気持ちよく付き合える関係性が築けていけるといいなと思います。

 

どうぞ素敵な春をお過ごしください。

ここまで読んでいただき有難うございました。